9種類のセットアップが可能フレームIQON「Decode Pro 90」の詳細スペック&レビュー:高田健一

2021年5月に産声を上げ、7月から製品の販売を始めたばかりの新ブランド「IQON」。
特徴は、フリースケート用の製品ラインナップを主軸に据えつつ、全方位的な製品展開をしていること。
中でも目玉商品は、フリースケートやウィザードスケーティングなどが楽しめる、複数のセッティングが可能なフレームです。
その他、ウィールは55mmから125mmまでの13サイズあり、ブーツは3種類のマウントのブーツが10種類ほどがリリース予定となっています。

そのIQONが最初にリリースしたフレームが「Decode Pro 90」シリーズ。
Trinity、165(Vフレーム)、UFSの各マウント用のものが用意されていて、自分好みの4x90や3x110のセットアップが可能なので、フリースケートはもちろん、長距離クルージングやウィザードスケーティングなどを自分のスタイルで楽しむことができます。
これからスペックや使用感を詳しく書いていきますが、細かいことは飛ばしてまとめだけ知りたい人は、下の方にある「総評」をお読みください。

スペック

項目     概要                                                
メーカー IQON                                                
商品名   TR Decode Pro 90 、CL Decode Pro 90、AG Decode Pro 90
種類     Bright(シルバー)、Dark(ブラック&ゴールド)      
重量     317g(TR Decode Pro 90、シャフトなし)              
参考価格 27,000円(税抜き、ベアリング無し)                  
  • 押出成形の7003アルミ製。
  • 「TR」はTrinity、「CL」は165mm(Vフレーム)、「AG」はUFSマウント用。
  • 各マウントともに2カラー展開。
  • 1つのフレームで9種類のセットアップが可能。
  • 各セットアップで車高が最も低くなる設計。
  • ロッカリング可能な位置のシャフトは、上下の向きを変えることによって1mmロッカリング可能なロッカーシャフトを採用。
  • フレームにボス(ウィールを挟むフレーム内側の出っ張り)がない代わりに、ボス機能付きの専用ベアリングを使用。
  • AG Decode Pro 90のみ:前後に少し傾斜がついていて、4x90では4輪目は1輪目より3mm高くなっている。

写真1 「TR Decode Pro 90 Dark」の横、上、下から

写真1「TR Decode Pro 90 Dark」の横、上、下から

写真2 「Decode Pro 90 Combo」に付属するハードウエア類(シングルシャフト、ロッカリングシャフト、フレーム取付けネジ3種、フレーム取付け用ワッシャー、専用ベアリング用スペーサー)

写真2「Decode Pro 90 Combo」に付属するハードウエア類(シングルシャフト、ロッカリングシャフト、フレーム取付けネジ3種、フレーム取付け用ワッシャー、専用ベアリング用スペーサー)

写真3 付属の工具はロゴ入りT字型ハンドルタイプ

写真3付属の工具はロゴ入りT字型ハンドルタイプ

9種類のセットアップ

そのIQONから初リリースとなったものが、UFS、165、Trinityの3種類のマウント別の「Decode Pro 90」フレームです。
まず目を引くのが、12個もあるシャフト用の穴。
この穴を利用して、9種類ものウィールのセットアップに対応しています!

ただこれだけのセットアップを並べられても、インラインスケートをいろいろ楽しんでいないと、何のことか良くわからないと思います。
そこで簡単ですが、各セットアップをひとつひとつ説明していきます。

 4x90 / 275mm / フルフラット

90mmウィールの4輪、全輪接地仕様。
安定感重視のフリースケート向き。
ジャンプを多用する人に向いている。

 4x90 / 275mm  / 1mmロッカリング

90mmウィールの4輪、中央2輪が1mm下に出るロッカリング仕様。
ウィザードスケーティングや旋回性重視のフリースケート向き。
1mmロッカーなので、グラグラする感覚はないが、スライド技や回転技がやりやすい。

 3x110 / 229mm / フルフラット

110mmウィールの3輪、フレーム長が短い全輪接地仕様。
3x110を使いたい足が小さい人や、ロッカリングしたくないけれど小回りしたい人や、スピードスラローム向き。

 3x110 / 229mm  / 1mmロッカリング

110mmウィールの3輪、フレーム長が短い中央1輪が1mm下に出るロッカリング仕様。
スラローム用フレームのような高い旋回性を求めている人や、スピードスラローム向き。
トリックスラロームも可能で、スライド技もやりやすい。

 3x110 / 253mm / フルフラット

110mmウィールの3輪、フレーム長が少し長めの全輪接地仕様。
一般的な3x110のセッティング。
安定感があり、大径ウィールならではのスピード感を楽しめる。
どの3x110のセッティングにしたら良いのかわからない場合は、まずこれを試すと良い。

 3x110 / 253mm  / 1mmロッカリング

110mmウィールの3輪、フレーム長が少し長め中央1輪が1mm下に出るロッカリング仕様。
街中のクルージング向け。
安定感と旋回性の良いとこ取りをしたい人にも。

 3x110 / 253mm / アシンメトリックフラット

110mmウィールの3輪、フレーム長が少し長めの全輪接地、中央1輪後ろ付き仕様。
基本的には「3x110 / 253mm / フルフラット」と同じ。
中央のウィールが前後のセンターより13.5mm後ろに配置。
中央ウィールが後ろ側に位置することによって、前向き滑走時の旋回性が「3x110 / 229mm / フルフラット」と同じくらいまで上がるが、後ろ向き滑走時の旋回性はかなり下がる。
前向きしか滑らないクルージング向き。

 90-72-H-72-90 / 275mm / フルフラット

1輪目と4輪目に90mm、中央2輪に72mm、真ん中にHブロック(別売り)の全輪接地仕様。
Hブロックを付けることによって、「4x90 / 275mm / フルフラット」よりレールなどでのグラインドがやりやすくなる。
スピード重視でパークなどを楽しみたい人向け。

 90-72-H-72-90 / 275mm / 1mmロッカリング

1輪目と4輪目に90mm、中央2輪に72mm、真ん中にHブロック(別売り)の全輪接地仕様。
Hブロックを付けることによって、「4x90 / 275mm / 1mmロッカリング」よりレールなどでのグラインドがやりやすくなる。
スピードと旋回性重視でパークなどを楽しみたい人向け。

専用ベアリング「Decode Bearing」

多くのセットアップに対応していてメリットが多いDecodeフレームですが、最大かつ唯一のデメリットが、Decodeフレーム用ベアリング「Decode Bearing」が必要なのことです。

普通のアルミフレームの内側には、ベアリングの内輪を挟んで固定するための出っ張り「ボス」があります。
しかしDecodeシリーズのフレームの内側にはそのボスがなく、真っ平らです。
複数のセットアップを可能にするためにシャフトを通す穴が通常の3〜4倍あるのですが、その穴全てにボスを設けると、そのセットアップでは使用しないボスがベアリングの外輪やウィールと接触することになるため、フレームにボスを設けることをやめたのでしょう。
そこでボスの機能を持つ専用ベアリングを開発し、販売することにしたのだと思われます。

ベアリングの内輪にボスの出っ張りがあることで、ベアリングプレス機を使用してベアリングを外すのが難しい場合があります。
そのため、Skatecのベアリングリムーバーがあるとベアリングを外す際に便利です。

そのボス付きの専用ベアリング「Decode Bearing」は現在、「Decode GOLD」と「Decode CERAM1K」2種類用意されています。

Decode GOLD

6つ玉で、片側シールの金属製ベアリングです。
スムーズに高速回転し、TwincamのILQ9とほぼ同等の性能のようです。
販売価格はベアリング16個で約4,000円ですが、フレームとセットで購入すると約3,000円となり、TwincamのILQ9の半額以下で入手できます。
おそらく、専用ベアリングを通常の価格設定にしてしまうと、フレームと合わせた価格がかなり高くなってしまうので、この「Decode GOLD」から利益を得るのを放棄したのだと思います。

Decode CERAM1K

セラミック製の6つ玉で、片側シールのベアリングです。
販売価格は税抜きで20,000円となっています。

写真4 「Decode GOLD」の表と裏

写真4「Decode GOLD」の表と裏

写真5 「Decode GOLD」の内輪のボスの出っ張り

写真5「Decode GOLD」の内輪のボスの出っ張り

写真6 Decode Bearingを外すのに便利なSkatecのベアリングリムーバー

写真6Decode Bearingを外すのに便利なSkatecのベアリングリムーバー

レビュー

クルージング

今の日本国内で、3x110のセットアップが最も多く使われいているのがクルージング。
大径ウィールのスピード感を存分に楽しめるのに、旋回性もそれなりにあるのが理由だと思います。
しかしスラローマーなど、既存の243mmや255mmなどのフルフラットフレームでは旋回性が物足りないと感じている人たちもいると思います。
そういった人たちに、このDecodeシリーズは待望のフレームだと思います。

5種類ある3x110のセットアップの中で3x110 / 253mm / フルフラットこそ、一般的な3x110フレームと代わり映えしませんが、その他のセットアップは旋回性がアップする仕様となっています。
最も旋回性能が緩いのは3x110 / 253mm / アシンメトリックフラットで、安定感をキープしつつかかと荷重をすると曲がりやすくなります。
反対に最も旋回性能が上なのが3x110 / 229mm  / 1mmロッカリングです。1mmロッカリングなのでグラグラする感覚はほとんどありませんが、きちんと2輪で滑ることができるので、4x80ロッカーフレームなどのスラローム用フレームと同等レベルの動きができます。
大径ウィールのスピード感は魅力的だけど、フルフラットのもっさりした操作感が苦手な人は、この「Decode Pro 90」をオススメします。

写真7 クルージング向きのセットアップ「3x110 / 253mm / アシンメトリックフラット」

写真7クルージング向きのセットアップ「3x110 / 253mm / アシンメトリックフラット」

フリースケート

日本ではまだまだ知名度が低いジャンルのフリースケート。
しかし昨年、安床武士さんを始めとするインラインスケーターが3x110や4x90のセットアップで、いろいろな技をしながら街中を滑る動画「NEO STANDARD 1.0」と「NEO STANDARD 2.0」が注目されました。
これらの動画に出てくるフリースケートの滑りも、Decode Pro 90で楽しむことができます。
しかも、単に動画のようなフリースケートができるだけでなく、自分の好みやスタイルに合うセットアップが可能になります。
例えばジャンプやロックを多用する人は4x90 / 275mm / フルフラット、スピードを出して滑り回りながらスライド技を楽しみたいのなら3x110 / 253mm  / 1mmロッカリング、といった具合です。
また、滑走場所や遊び方を変える時に、シャフトの向きや位置を変更するだけで簡単にセットアップを変えることができるのも、このDecodeフレームの特徴です。

また、4x90 / 275mm  / 1mmロッカリング3x110 / 229mm  / 1mmロッカリング3x110 / 253mm  / 1mmロッカリングの、1mmロッカリングのセットアップでのスライド技のしやすさは抜群です。
スライド技をする時、ブーツを回し込んでスライド技に入るきっかけを作ることが多いと思いますが、スライド技に慣れていないとフルフラットのフレームでは、このきっかけ作りが難しいです。
しかし、1mmでもロッカリングされているフレームを使うと、軽い力でスルッとブーツを回し込むことができるので、スライド技に入りやすくなるのです。
今までフルフラットの4x90や3x110フレームで、パラレルスライドやマジックスライドなどがうまくできずに挫折した人は、このフレームの1mmロッカーセットアップで再チャレンジしてみて欲しいです。

さらに、90-72-H-72-90 / 275mm / フルフラット90-72-H-72-90 / 275mm  / 1mmロッカリングのセッティングではフレームの真ん中にHブロックが付きます。
Hブロックのくぼんでいる部分の長さは約41mmと、それほど大きくありませんが、フリースケート中に少しグラインドで遊ぶ分には十分なものだと思います。

写真8 フリースケート向きのセットアップ「3x110 / 253mm  / フルフラット」

写真8フリースケート向きのセットアップ「3x110 / 253mm / フルフラット」

ウィザードスケーティング

カナダ発祥で、世界では昨今、インラインスケートのジャンルの一つと認識され始めた遊び方です。
フリースケートの1種とも捉えることもできるのですが、フロー感のある滑りをしながら、ウィールを寝かせて滑らすような回転技や滑走場所にある障害物を利用した滑りを楽しむのが、ウィザードスケーティングです。
そして、このウィザードスケーティングを楽しむために開発されたのが、頑丈で緩いロッカリングが特徴でUFSマウントの「Wizard Frame」で、その中で最も扱いやすいのが4x90フレームとなっています。

このDecode Pro 90の4x90 / 275mm  / 1mmロッカリングは、Wizard Frameの4x90とほぼ同じロッカリング仕様となっています。また、UFSマウント用の「AG Decode Pro 90」は、Wizard Frameと同じように操作性を上げるため、かかと側が少し高くなる傾斜が付いています。
各マウントに合わせて、ウィールの接地面からブーツのソールまでの高さをできる限り低くなるようになっています。
さらに通常のアルミフレーム人使用されているアルミより硬い7003アルミでできているので剛性や耐久性が高くが、さらに1輪目と4輪目に強い負荷が掛かっても耐えられる設計になっています。
そのため、ウィザードスケーティング独特の技がとてもやりやすくなっています。
現在、国内のショップで販売されているウィザードスケーティング用フレームは、このDecodeシリーズのみとなっています。

写真9 ウィザードスケーティング向きのセットアップ「4x90 / 275mm  / 1mmロッカリング」

写真9フリースケート向きのセットアップ「4x90 / 275mm / 1mmロッカリング」

スラローム

4x90 / 275mm  / 1mmロッカリング3x110 / 229mm / フルフラット3x110 / 229mm  / 1mmロッカリングのセットアップは、スラロームができてしまいます。
例えば3x110 / 229mm  / 1mmロッカリングでは、動画「トリックスラローム:IQON Decode 90 Frame | 3x110/229mm」のように、基礎技だけでなくトリックスラロームの飛燕や不知火も可能です。ただ、ウィールサイズが大きいのでスピン系は感覚が異なり、少し慣れが必要です。
さすがに繊細な動きは動きはスラローム用フレームにかないませんが、クルージングの後にスラロームを少し練習したり遊んでみるには、十分すぎる操作性です。

スピードスラローム

実はDecode Pro 90フレームは、競技会でも使用できるほど、スピードスラロームにも向いています。
既存の大径ウィール用のフレームは、スピードスラロームをするにはフレーム長が若干長いものが多く、またロッカリングできないため、操作性に難があるものが多かったです。
しかしこのDecode Pro 90フレームの3x110 / 229mm / フルフラット3x110 / 229mm  / 1mmロッカリングのセットアップではフレーム長がかなり短いので、スラローム用フレームと同じような操作感で滑ることができます。
そのため、110mmウィールのハイスピードと高い旋回性の両立していて、まさにスピードスラローム向きのセットアップとなっているのです。

写真10 スピードスラローム向きのセットアップ「3x110 / 229mm  / 1mmロッカリング」

写真10スピードスラローム向きのセットアップ「3x110 / 229mm / 1mmロッカリング」

総評

この「Decode Pro 90」はクルージング、フリースケート、ウィザードスケーティング、スラロームが楽しめるだけでなく、各セットアップでフルフラットとロッカリングの選択ができる多機能フレームです。
また、現在購入可能な3x110のロッカリング対応フレームは、Decode Pro 90だけです。
今まで、これだけ多様なセットアップに対応できるフレームはありませんでした。
しかも、現在販売されているほとんどのアーバン、フィットネス、アグレッシブ用ブーツに取り付けられる、Trinityマウント用(TR)、165(Vフレーム)マウント用(CL)、UFSマウント用(AG)のDecode Pro 90がリリースされているのも嬉しいです。

フレームは少し高価ですが、一般的な6061アルミ製より強度が高い7003アルミ製です。
また負荷に強いデザインとなっています。
そのため、フリースケートやウィザードスケーティングなどで1輪目や4輪目に負荷を掛ける滑りをしても、他社製品のようにフレームが力に負けてたわみ、滑りにくさを感じるようなことはないでしょう。

専用ベアリングが必須というデメリットもありますが、フレーム付属の専用ベアリングは高性能なのに格安という超コスパの良いベアリングなので、決して損をした気持ちになりません。
街中や郊外を滑るのであれば、Decode Pro 90を1組持っているだけで事足りてしまいます。
何か新しい滑りやジャンルにチャレンジしようと思った時に、シャフトの位置やウィールを変更するだけで、すぐに始めることができます。

IQONは新しいブランドなので、信用できる品質なのか疑っている人もいるかと思います。
その点に関しては、Powerslide製品と同等品質と考えてください。
誰でも簡単に調べられるのですが、IQONの親会社であるDisroyalPowerslideの住所を見ると、同じ敷地内にあることが分かります。
これ以上は言及しませんが、つまりそういうことです。(笑)

高価なフレームなので、価格だけ見ると一瞬ひるむかもしれません。
しかし、セットアップごとにフレームを買い揃えるより安上がりですし、現在はこのDecode Pro 90と同レベルの高品質なフレームを国内で入手すること自体も難しい状況です。
機能や性能など総合的に考えると、決して高くないと思います。
3x110や4x90のフレームを新たに購入する際、デザインの好き嫌いはあるかと思いますが、以下の条件に当てはまる人は、ぜひIQONの「Decode Pro 90」フレームも検討ラインナップに加えてみてください!

  • 3x110や4x90のロッカリングフレームが欲しい。
  • クルージング、フリースケート、ウィザードスケーティングの中で2つ以上のジャンルを楽しんでいる。
  • クルージングやフリースケートをするのに、どんなセットアップが自分に合っているのかわからない。(だからいろいろ試してみたい)
  • スピードスラロームで大径3輪フレームを使いたい。

写真11 セットアップ「4x90 / 275mm  / フルフラット」でもクルージングは快適

写真11セットアップ「4x90 / 275mm / フルフラット」でもクルージングは快適

写真12 セットアップ「3x110 / 229mm  / フルフラット」でのクルージングは安定感と機動性の両立が楽しめる

写真12セットアップ「3x110 / 229mm / フルフラット」でのクルージングは安定感と機動性の両立が楽しめる

参考

サイト 説明
IQON Frames 公式サイト
IQON Decode 90 | Shop Skrap 販売サイト
ベアリングリムーバー | Skatec.jp 販売サイト