本気仕様インナーブーツのRoces「RL1」のレビュー:高田健一

インラインスケートの老舗であるイタリアのRocesが、2年を掛けて開発した渾身のインナーブーツがこの「RL1」。
多くのインナーブーツが快適さを追求して作られています。しかし、RL1はブーツの性能を最大限に引き出す作りとなっていて、入れ替えるだけでファミリーカーのようなハードブーツが自分仕様のレーシングカーに変身してしまう、そんな驚異のインナーブーツです。

スペック

項目 概要
メーカー Roces
商品名 RL1
サイズ S、M、L、XL
重量 195g(Sサイズ)
参考価格 20,000円(税別)
  • 熱成形可能な2層構造のパッドで構成。
  • ネオプレーンとLyclaの素材を使用して、インナーブーツ自体のサイズをコンパクト化
  • 登山靴を参考にして搭載したトライホールドレースシステム(ひもを使用した3点固定)による、かかとの固定と操作性の向上。
  • かかとの後ろと靴底に滑り止めを配置して、シェル内でのずれを防止

写真1 ブーツの外側

写真1ブーツの外側

写真2 左:ブーツの上から 右:ブーツの靴底

写真2左:ブーツの上から 右:ブーツの靴底

レビュー

履き心地

ウレタンのパッドは指で押すとへこむのでそれなりに柔らかいのですが、足を入れるとけっこう硬く感じます。MYFITの「SPC Dual Fit」もパッドが硬く感じるインナーブーツですが、その比ではありません。
硬めのパッドが足首周りを隙間なく埋めている感じで密着度が強く、フィット感の良し悪しを通り越してかなり強めの圧迫感すら感じるほどです。
くるぶし下のパッドの出っぱりが大きく日本人の足型とあまり合わない可能性があるため、くるぶしの下側が圧迫されて痛く感じる場合もあります。
しかし熱成形で該当箇所をへこませることができますし、ソルボヒールなどの硬めのかかと用ショックアブソーバーを入れてかかとを少し上げることによって、くるぶしの圧迫を解消できます。

登山靴から始まったRocesが、登山靴からヒントを得て搭載したトライホールドレースシステム(ひもを使用した3点固定)は侮れず、かかとをしっかり固定して、厚いパッドだけでは作り出せない足とブーツの一体感を実現しています。
シューレースをしっかり締めると、外側を通っているひもによって、かかとの前部分と上部分が引き寄せられ、足とインナーブーツがびたっと密着します。
されに、かかと部分に内張りされている白い生地の表面には、上から下に向かって寝た状態の少し硬めの短い毛があります。
その特殊な白い生地のおかげで、ブーツを履く時はスルッと足が入るのですが、一旦履いてしまうと毛が軽く引っかかって、かかとが上方向にずれにくくなっています。
このように3方向から足首をしっかり押さえるだけでなく、生地も利用してかかとを固定するので、かかと浮きはもちろんのこと、ブーツの中で足が動いて操作性が落ちるようなことはありません。

タンには、縦方向に曲がらないくらいかなり硬い芯が入っていますが、足首の前後の動きを妨げない作りになっています。
足首を深く倒し込んで体重を掛けることが可能で、しっかりすねを支えてくれます。

ブーツ自体の高さは低めですが、硬めな素材でかかとから足首の上までしっかり支えてくれるので、サポート不足でもっと高さが欲しいと思うことはありませんでした。

インソールはかかとのショックアブソーバーや、土踏まずなどを支える白いサポート素材が付いた、比較的しっかりしたものが入っています。
ブーツに最初から入ってくるインソールとしてはかなり良いものですが、専門メーカーのインソールと比べると、やはりどうしても見劣りしてしまいます。

写真3 ブーツ内部のかかとからアキレス腱部分

写真3ブーツ内部のかかとからアキレス腱部分

写真4 付属インソール 左:裏 右:表

写真4付属インソール 左:裏 右:表

熱成形

RL1を入手したら、難しくないので必ず熱成形してください。
付属の紙に書いてありますが、約1kgのお米を綿のハイソックスに入れて電子レンジで7分加熱し、それをRL1に入れて7分放置して温めます。その後、インソール入れ、ブーツにRL1を入れてから足を入れ、全てのシューレースとバックルをきつめに締めて足首を深く曲げた状態で、RL1が常温に冷めるまで待てば出来上がりです。
参考動画URL:How to heat mold your RL1 Liner + chat with Nils Jansons

熱成形すると、熱成形前の無駄に強い圧迫感はなくなりました。パッドは硬いままですが、自分の足の形になっているので痛さや違和感がなくなり、長時間履いていても辛くならなくなりました。
その上、足の形に沿って隙間なくパッドが足首周りにフィットするので、ブーツとの密着度や一体感がさらに上がります。

操作性

RL1の靴底や背面(かかとやアキレス腱の部分)に滑り止めが付いているので、シェルのサイズが合っていれば、RL1がシェルの中でずれることはありません。また履き心地の項で書いたように、RL1の中で足が動くことがないので、足とブーツの一体感やレスポンスはかなり良いです。
この一体感とレスポンスの良さは、まるでカーボンブーツのようで、ハードブーツで滑っている感じがしません。ハードブーツで見受けられる足を動かしてから一瞬遅れてブーツが反応したり、パッドや足裏が柔らかすぎて操作性が下がるようなことは一切ありません。むしろカーボンブーツよりも機敏に動けるくらいです。

パッドは厚く感じるのに全体の作りはコンパクトなので、人によってはブーツのサイズを1つ落とすことができます。
ブーツサイズを落とすと、操作性がさらにアップするでしょう。

シューレースをしっかり締め上げても、ブーツ自体の高さが低いので足首の可動域が大きいです。Intuitionなどのパッドが柔らかめでハイトップのインナーブーツより、このRL1の方がサポート力が強く、足首の自由度がも高いです。
そのため、加速しやすく、いろいろな技がやりやすい印象です。
もっと足首の可動域を広げたい場合は、シューレースで調整できます。

ハードブーツに3x110や3x125などの大径ウィールを付けて滑っている場合は、RL1を入れるとブーツの剛性が上がるので、操作性だけでなく、足や滑りの安定感もアップします。
そして、しっかり踏み込んだり、キックしたりすることができるようになるので、大径ウィールによるハイスピードの滑りをより一層楽しむことができるようになるでしょう。
安定感と加速性が上がるということは、長時間滑走時の疲労軽減にも繋がると思います。

RL1で想定されているアグレッシブや大径ウィールでの使用だけでなく、トリックスラロームでの使用もまったく問題ありません。
問題ないどころか、RL1をNextに入れてスラロームをすると、Seba Highやカーボンブーツよりもレスポンスが良く、技がとてもやりやすく感じています。機敏な動きはするけれど、あまり繊細な乗り方を必要としないトリックスラロームとの相性が良いのかもしれません。
NextやFRなどのハードブーツでトリックスラロームをしている人は、インナーブーツをこのRL1に入れ替えるべきだと思えるくらいです。

サイズ

フィット感が極めて大切なので、できるだけジャストサイズを選ぶと良いと思います。
Rocesのアグレッシブブーツなら対応表があります。
他社ブーツに使用する場合の目安として、足のサイズがRocesの計測方法で25.5cm以下がSサイズ、26.0〜27.5cmがMサイズ、28.0〜28.5cmがLサイズとなりそうです。

僕自身は約25.5cmで、Sサイズを選択しました。
最初に足を入れた時はSサイズだとパッドの強めの圧迫感を感じ、Mサイズはそれほど緩くなかったのですが、フィット感や密着感が物足りなく感じました。
そこでフィット感が甘くなるのを嫌ってSサイズを選択。
しかし熱成形するとちょうど良くなり、履き込んでいくと当初のきつさはまったくなくなりました。

写真5 サイズ比較 左:Mサイズ 右:Sサイズ

写真5サイズ比較 左:Mサイズ 右:Sサイズ

写真6 サイズ比較 左:Mサイズ 右:Sサイズ

写真6サイズ比較 左:Mサイズ 右:Sサイズ

コストパフォーマンス

こだわりの素材を使用しているだけでなく、イタリアの職人によるハンドメイドということもあり、インナーブーツだけなのに税抜き価格で2万円と高価です。お世辞にも安いとは言えません。
しかし、これほどまでにハードブーツのポテンシャルを引き出してくれるインナーブーツは、おそらく唯一無二だと思います。ハードブーツを使用していて、「もっとエアの高さを上げたい」「もっと機敏に動きたい」などと思っている人にとっては、プライスレスな価値があるのではないでしょうか。
一方で、操作性の向上は求めず、柔らかい足入れ感を求める人には、まったく価値を感じられないでしょう。
そのような訳で、コスパの良し悪しは、人によってかなり変わるギアだと思います。

総評

ハードブーツは構造上の問題で、カーボンブーツなどのインナーとシェル一体型と比べて、どうしてもフィット感や操作性が劣ってしまいます。しかし、インナーブーツをRL1に入れ替えるだけで、そのようなハードブーツの悪い先入観があっさりと覆されるはずです。
RL1が足をがっちり捉えてホールドし、ブーツ内でのルーズ感を完全に消し去り、カーボンブーツ並みかそれ以上のフィット感とレスポンスが得られるようになります。 その上、熱成形すれば自分の足の形になるので、無駄な圧迫感や痛さを感じる当たりが解消されます。

このようなRL1は、ジャンル問わず、本気で滑りを追求しているハードブーツユーザに自信を持ってお薦めできる、超高性能インナーブーツです。
かなり高価ですが、操作性向上を求めるハードブーツユーザにとっては、大枚をはたいて買うだけの価値はあるでしょう。
ぜひRL1を入れて、手元にあるハードブーツの性能を最大限引き出してあげてください!

参考

2021年1月20日現在、国内販売サイトのSoul Vision Worksにはほとんど在庫がありませんが、3月末以降に再入荷の予定があり、予約が可能とのこと。
また、ブラック以外のカラーを販売する可能性があると、RocesがSNSでコメントしています。

サイト 説明
ROCES Skate ロチェス RL1 Liner インナーブーツ(Soul Vision Works) 販売サイト

(高田健一)